わかってほしい、ぼくのこと

僕の感覚過敏について
            金坂 律


目   次
まえがき

第一章  感覚過敏の種類

 1-1 視覚過敏

 1-2 聴覚過敏

 1-3 味覚過敏

 1-4 触覚過敏

 1-5 嗅覚過敏

 1-6 前庭感覚

 1-7 固有感覚


なかじめのかわりに
        金坂 光




コラム1
書字障害で大変な事




なかじめのかわりに
 実は、ここまでで律の書こうとしている半分が終わったところです。これから書く予定のことは、まだまだマインドマップ(※)の中に収まったまま。それで後半を期待しつつ、私が一度ここで「中締め」として「予告」をしようと思います。

 その前に、まずは律がこれを書くに至った経緯などを。
 律がこの文章を書き始めたのは2年生の後半。ちょうど私達(健常者)と律たち(自閉っ子)の見え方が違うという話から始まりました。
 人は自分で認知している世界が、他の人とも共通だと思いがちです。自分で見ている赤い鳥が、他の子にとっては黒い鳥だなんて、なかなか思えませんもんね。でも実は、それはあながち「ない」ことではないのです。例えば私の友人はひどい「鳥目」ですから、夜の暗さが私とは違います。そんなレベルなら割と周りにあることなのではないでしょうか。

 ところがある日、律の認知レベルの違いがその程度ではないと判ったのです。これにはお互いびっくりしました。なにしろ自分の見ているものが相手の見ているものとは違っていたのですからね。更に話してみるとそのズレがすべての感覚に渡っていたので、もっとびっくり!!でも、そこからお互いの”世界”を推し量るようにしてみたら、やりとりがグンとスムーズになったのです。これは便利だ「何かに書いておこう」、という感じで始まったのが最初でした。
 どうせ書くなら律の大変さを理解してくれない先生や大人達に判るように書いたら?とか、他の自閉っ子も困ってるかも?とか言いながら、書いていくとこんな風になったのです。だから今、貴方に読んでいただけるということは、つまりは律が最初に思い望んだままということになります。ありがとうございます。

 さて次は「予告」。
 この先の部分は律の他の障害についてです。彼には感覚過敏の他に(というか主障害として)アスペルガー症候群と書字障害があります。この文章は元々感覚過敏について書き始めたのだから、それは一緒に書かなくてもよいような気もしたのですけれど、書き進めるにつれて、今の状態を書き留めておくには他の障害との絡みを書いておかないと意味がないのでは?と思い始めたのです。(律との話し合いの中でそうなった、と言うのが正しい表現かもしれませんが)
 アスペルガー症候群には感覚過敏が併発しやすい、というデータもあるようですし、これも自閉っ子達のお役に立てばいいね、と言いつつマインドマップにまとめました。
 あと、この先に加えられるのは”私の担当”・・・つまり律の持っている問題ではないけれど一緒にいる母親である私が見聞きした子の「大変さ」を書き留めておこう、というものです。というのは、感覚過敏と一口にいっても現れる問題は様々なのです。例えば、律の聴覚過敏は「遠くの音も同じように聞こえる」かたちですが、別の子は「(音の遠近感)は判るけど)全部の音が大きくてうるさすぎる」と言います。
どちらにしても日常的に耳が敏感すぎて迷惑をしていることが多いのですから、聴覚過敏という障害には違いないのですが、自ずと対処法は違ってきます。
 そんなわけで、もしあなたの知っている”過敏っ子”のエピソードがありましたら是非教えていただきたいです。これから、の部分に一つでも多くのバリエーションが入れば使い勝手も良くなると思ったのですが、いかがでしょうか? 賛成していただける方は hika@kang-poo.com  までメールをいただければ幸いです。

 最後に律が自分では書けなかった(感覚障害による障害でもある)睡眠障害について、書いてみようと思います。これを読んだことで、感覚過敏が他の障害と結びついている状態を判っていただきやすくなるのではないかと思いますので。

 律が自分の睡眠障害について書けないのは、眠っている間に起こることだからです。つまり自分では眠っているのに心身ともに休んでいないため、疲れが解消せず、朝起きることができないでいるのです。いわゆる睡眠外来が対応するような病気ではないので治療はしていませんが、厄介な問題ではあります。今では慢性疲労の状態になっているのか、学校は毎日3時間目から登校。それでも心身にストレスが加わるとすぐに発熱するのです。

 睡眠障害とのつきあいは、律が2歳くらいに”夜驚症”になったのがはじまりです。これは昼間に脳に取り込む情報が多すぎると睡眠中に処理しきれなくなって起こる現象であるようです。眠って1時間ほどすると、ものすごい泣き声をあげて暴れます。時にはあらぬ方へ走りだしたりするために危険でもあります。”寝ぼけ”の大騒ぎバージョンとでも言えばいいでしょうか。インフルエンザ治療薬タミフルで幻覚発作が起きている子の話を聞くと、かなり近いものがあると思いますが。おまけに律には気管支喘息の気があって、自分の泣き声で喉が傷められ喘息発作につながることもあるので、まずはなるべく早く押さえることが最善策でした。
 そんな大きな”夜驚”も最近では数が減っています。最初は毎晩のようにあったものが、今では1月に1度あるかないかですから、親も助かります。しかし、一方でれている間に発作状態になって、やっぱり朝はおきられない、という事態が増えてきています。高熱が出るとものすごく汗をかいて、頬が真っ赤になり息が荒くなり、時には奇妙な寝言を言ったりしますよね。律の場合、それがそのまま突然、起きるのです。
 律は普段から「暑さ寒さを感じにくい」と言いますが、そんな感覚の認知のズレが大きくなって”熱”にまで発展しているのでしょうか。謎です。普通の熱と違って風邪などのウイルスが引き起こすものではないので、熱は明け方にはすっかり下がって本人も元気でいますが、体が疲れているには変わらないので起きる時間は遅くなります。結果的には形は違えど、睡眠障害になるわけです。
 律が朝起きられない理由の中に、単純に夜寝るのが遅い、というのもあります。部屋が明るくて眠れないのです。では、部屋の明かりを消せば良さそうですが「暗い所は怖い」と言って嫌がります。ドクターに聞いたところだとアスペルガータイプの子では、「怖い」がエスカレートしてしまう子もいるということで”要注意"を言われています。というわけで、布団に入ってから1時間以上も眠れないこともあるのですから、これも厄介です。
 仕方がないので律の寝室の明かりには、眠る時にはシェードを掛けて和らげ、起きる時にはシェードを外してできるだけ強い光を浴びさせるようにしています。おかげで少しずつですが、眠りの質がアップしてきているよう思います。
 さて、このように「睡眠障害」だけみても、脳に取り込む情報量と処理に問題がある場合、認知のズレが起こしている可能性、視覚の明るさによって不安を大きく抱えてしまう場合、視覚過敏によってちょうど良い照明の幅が狭い場合、といくつもの原因がありそうです。と、そんなことを考えていると感覚過敏を語る時に他の障害を無視することができなくなってしまったというわけです。

 これから書かれる後半部分では、こんなことがいくつも出てくる予定ですので、お楽しみに!?


※マインドマップというのはコンピューターソフトの名前です。日本ではビジネスツールとして知られているようですが、律のようなメモの取れないこどもたちが考えをまとめるにも大変便利です。お心当たりの方は、どうぞお試しを!
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